2019.07.16

おせっかい

同情はいらない。アート作品で対価を生み出す生活介護施設「なごみ工房」の挑戦とはー福祉とアートのカンケイー

 

自閉症の方には、独特で素晴らしい世界観があるんですよ

そう語るのは、豊後大野市にある生活介護事業所『なごみ工房』の施設長・秋月正博(36)さんだ。

なごみ工房は、社会福祉法人『萌葱の郷』が運営する就学児への療育活動を行うこども発達・才能支援センター『なごみ』の卒業生を対象とした総合的な生活介護支援を行う施設として2017年に開所した。

そのなごみ工房には、利用者が生み出すアート作品を販売するプロジェクトがある。

 

彼らはアーティストなんですよ

「同一法人の『めぶき園』では開園当初からアート活動に力を入れ、さまざまな展示会を開催していました。2016年には大分県立美術館『OPAM』にて『アトリエMOE展』という名称で大規模なアート展を開きました。しかし、私たちの仕事は利用者さんの施設の支援やサポートが主軸であるため、それらの作品の商品化までは手が回らず展示がメインでやっていたんです」

秋月さんは、2017年から利用者の才能をやりがいと収益に繋げるため、利用者のさらなる才能を見いだす作業をスタートさせた。

「もともと花の絵を描くことで有名な利用者さんもいましたが、とにかく彼らが興味ある作業をやってもらったんです。絵を描く作業をしてみたり、墨を使って文字を書いてもらったり、とにかくいろんな作業をしました」

絵が得意な利用者、独特な味のある文字を書く利用者。彼らの作品には、どこか人を惹きつけるものがあった。しかし、利用者のサポートがメインのこの仕事には、肝心の商品化して販売するプロデューサーがいなかった。

同時にいまの支援サポートのあり方にも疑問を感じていた。

「余暇を過ごすような生活支援としての生活介護事業は、仕事になかなか結びつきづらい。ともすれば、就労継続支援B型事業は、同じ作業を繰り返す中で賃金は支払われるが、利用者さんの気持ちが不安定でも行わなければならない時がある。その2つのちょうど中間で、やりがいのある作業を対価に変えることができれば、もっと生活が充実するのではないかと考えたんです

それには自分自身がプロデューサーになって今の時代に沿った形で世に出せれば、原石である彼らの作品と生活を輝かせることができるのではないかと感じたという。

こうして生まれたのが、なごみ工房のアートだ。

 

全行程を利用者がやる。それがアート。それが、なごみ工房流。

しかし、前途多難。プロデュースといえど、どこから始めるべきか。秋月さんは、同業施設を回り、商品化のヒントを探す。

そんな中、スタッフの案がきっかけで正月のお年玉を入れるポチ袋を作ることになった。できるだけ利用者の手だけでポチ袋を作りたかった。

「利用者さんが作るものに私たちの手が入ってしまうとそれはアート作品になりません。利用者さんの手だけで作れるように和紙の技術を教えてくれるところを探しました」

とにかく和紙の職人や施設に電話をかけた。福祉施設に技術を教えることはできないと言われたり、大きな機械を入れていてとても導入できる金額ではなく、思うようにはいかなかった。その中で見つけたのが、熊本の阿蘇にあるあーと和紙工房『白水』。和紙体験教室ができる工房だ。

店主に相談すると快く受け入れてくれた。

店主のご好意で和紙を作る技術を教わったが、楮(こうぞ)とネリいう和紙を丈夫に作る原料だけで商品化しても採算が取れない。そこで、牛乳パックからフィルムを 1 枚ずつはがし、そこから取れるパルプを再利用して混ぜることでコストを抑えながら耐久性とハリが出る和紙を作ることができた。

こうして、利用者が 1 枚 1 枚作る和紙で手づくりのポチ袋が完成した。

利用者さんが全部の作業をやって形になることで、アート作品としてできあがるんです。あくまで私たちはサポートするだけです」と秋月さんは言う。

 

アート専任を置くことで商品に広がりが出てきた

アート事業を加速させるために専門スタッフも採用した。普段のサポート業務に加え、絵が好きな職員を採用しアート専門作業ができるように職員全員でバックアップもした。

ポチ袋、ポストカード、Tシャツ、キーホルダー。どれもなんとも言えないかわいさのある商品が次々にできあがっていく。

1年目は主催の講演会などでのブース販売をはじめた。1年目にして順調に売り上げ、純利益を利用者にボーナスとして還元した。

2年目には、大分県立美術館『OPAM Museum Shop』での取り扱いが決まり、大分県で行われた「第33回国民文化祭・おおいた2018」「第18回全国障害者芸術・文化祭おおいた大会」閉会式の来賓者へのお土産品としてポチ袋 600 枚が使われた。

3年目となる2019年は、雑貨屋など多くの販売先が決まり売れ行きは好調だ。

それでも、もっと利用者のアートとしての価値を伸ばしていきたいと秋月さんは意気込む。

アートとしての価値を商品化することで世の中に認められて対価とその商品価値を上げていきたい。障がいのある方が作っている商品ではなく、アーティストが作る商品として認められることで、利用者さん自身がやりたいことに集中してその対価を支払えるようになりたいんです」

豊後大野市の新たなアートが生まれる『なごみ工房』の挑戦は続く。

 

生活介護事業所「なごみ工房」

住所:〒879-7304 大分県豊後大野市犬飼町大寒2149番地の1

TEL:097-586-8070

http://moeginosato.net/nagomi/index.html

 

なごみ工房の商品取り扱い店

社会福祉法人萌葱の郷 障害福祉サービス事業所「どんこの里いぬかい」

住所:〒879-7302 大分県豊後大野市犬飼町久原1863番地8

TEL:097-578-0077

営業時間:11 : 00 ~ 15 : 00(お食事処)

     9 : 00 ~ 17 : 00(直販所)

定休日:土曜日/日曜日

http://donko.moeginosato.net/

ハンドメイド雑貨「Craft Sakai」

住所:〒879-7131 大分県豊後大野市三重町市場1090

TEL:0974-35-3311

営業時間:10 : 00 〜 17 : 00

定休日:不定休

https://www.facebook.com/craftsakai/

一般社団法人 ぶんご大野里の旅公社

住所:〒879-7131 大分県豊後大野市三重町市場1090

TEL:0974-27-4215

営業時間:9 : 00 〜 17 : 00

定休日:年末年始のみ

http://sato-no-tabi.jp/

まちのちいさなドライブイン「ちとせや緑茶」

住所:〒879-7413 大分県豊後大野市千歳町下山918番地1

TEL:0974-27-5433

営業時間:10 : 00 〜 17 : 00

定休日:木曜日/第2水曜日

https://www.instagram.com/chitoseya.ryokucha/

大分県立美術館「OPAM Museum Shop」

住所:〒870-0036 大分県大分市寿町2番1号

TEL:097-533-4500

開館時間:10 : 00 ~ 19 : 00(入場は18 : 30まで)

http://www.opam.jp/

 

取材・文=高橋ケン