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2020.07.31

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街からアルコール消毒液が消えた日にピンチを救ったのは町の酒蔵だった〜泰明とアルコール消毒液のカンケイ〜

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2020年2月、全国各地からマスクや手洗い消毒液が消えた。その原因は中国の武漢から端を発したとされる新型コロナウイルスの感染拡大によるもの。中国のみならず日本を含む世界各国へと瞬く間に広がり、世界規模で経済や人々へ脅威をもたらした。

日本では、4月に発令された全国的な緊急事態宣言は解除され、一度は終息に向かうようにみえたものの、地域によってはまだまだ予断を許さない状況が続いている。今でこそ、マスクや消毒液が手に入るようになってきたが、その状況は深刻なものだった。マスクや消毒液の不足は、豊後大野市も例外ではなかった。優先すべき医療や学校関係への供給が不足していた4月、豊後大野市千歳町にある麦焼酎「泰明」の蔵元「藤居醸造合資会社」は、自社のアルコール消毒液の製造に着手した。厚生労働省が酒造会社へのアルコール取り扱いの規制を緩和したためだ。今回は社長の藤居淳一郎さんに新型コロナによる影響と自社アルコール消毒液をつくることになった経緯を訊いた。

 

町の焼酎蔵を襲った新型コロナの影響とは

3月中旬ぐらいはそこまで売上に影響はなかったかな。下旬になると出荷量が少しずつ少なくなってきて4月のはじめはそうでもなかったけど、中旬になると一気に少なくなったな。まず、料理屋さんで飲まれる量が少なくなった。そして酒屋さんでも販売する量が少なくなって、今度はメーカーが販売する量が少なくなって、蔵元への影響に少しタイムラグがあった。だから4月中旬ぐらいからガッと出荷量が落ちたかな。

うちのような焼酎蔵は、仕込みが始まったら、ずっと作るんですよ。でも、4月に入るにつれてコロナの影響を少しずつ受けてくると、瓶詰めの作業は徐々に少なくなっていったかな。特にうちの場合は東京や大阪、名古屋など県外のお客様が多く、都市部が影響を受けると、やっぱりお得意先のご注文も減っていきましたね。

 

いっぽうで町でアルコール消毒液やマスクがなくなるなんて考えられなかったね。特にうちは製造で焼酎づくりをする際に、麹菌が舞うので予防として使い捨てマスクを使っていて、ある程度は持っていたんだけれど、4月の終わりぐらいから手に入らなくなってきてちょっと焦ってきたよね。ここまでなくなるのは想像もしていなかったから。まずはマスクでしょ。それからまさか、アルコール消毒液がなくなると思ってなかった。でも、実はアルコールは自分たちでは作れるっていうのはわかっていたんだよね。

 

アルコール不足が招く焼酎蔵の転機

高濃度のアルコールは、何回も蒸留することによって、要はアルコールの割合を上げていくわけだから、自分たちでもつくることができるっていうのはわかっていた。ただ、高濃度のアルコールを作る上で、製造免許の兼ね合いがあって、アルコール度数45度以下しかつくれなかったから、この品不足で困っている人がたくさんいたから解除されないかなとは思っていたんだよ。

そうしたら、4月21日17時ぐらいに規制緩和がされたんだよね。その次の日から動いたかな。高濃度のアルコールについては厚生労働省の管轄で、私たちの酒類取り扱いは国税局の管轄なんです。国税局を経由して税務署からの通達で動くんですが、アルコール消毒液の需要に対して供給量がないというので、私たちのようなアルコールを扱う酒造関係にもそのような通達があったんじゃないかな。

21日に規制緩和がされた通達があって、その翌日から消防署や保健所へ行って話を聞きに行ったりして、現地へも2回ほど視察に来たかな。高濃度アルコールの取り扱いは危険物に当たるので、どのように保管するかなどの確認が必要だった。消防法の表示とかね。保健所も同様で。今までは税務署の表示だけでよかったんだけれども、アルコール消毒液を使うというところで飲むアルコールとそうでないアルコールを明確に分ける表示ラベルを作成することも必要だった。それから申請をして税務署が迅速に対応してくれて、24日に許可が下りて動くことができたんだよね。

 

世の中がこういう状況だから、アルコールを作ろうという試みは社員のモチベーションをあげることにもなったね。新しい試みでもあるし、何かの役に立てるならと普段以上にやる気に満ちあふれていたよ。みんな本当に試行錯誤して遅くまでやってくれていたもんなぁ。

まずどうやってつくるかというのを熊本国税局の技術指導する部署へ理論上のつくり方を聞きにいった。それからはアルコール度数を高くする作業。それには苦労したかな。実際に消毒液に使えるくらいアルコール度数を高くするのは初めてだから。

理論上はわかっていても、やっぱりつくるとなるとなかなか大変だった。たとえば、アルコール度数を高めたりするのもそうだけど、歩留まりするとかそういう技術的なところや原価的なところも含めて難しいところはたくさんあったな。うちの焼酎は麦だから、少し麦の香りは残るけれど、人体にも影響はなく安心して使ってもらえる。100%自然のもので100%エタノールを使っているので。

 

泰明アルコール77の由来

泰明77の写真

「泰明アルコール 77」の77は、アルコール度数の77なんだけど、大分県にアルコール消毒として一番効き目があるのは何度か聞きにいったんだよ。度数が低すぎてもダメ、高すぎてもダメ。低いということは消毒効果がないわけね。高いとすぐに揮発してアルコールが飛んでしまう。そのアルコール度数と揮発性のグラフで放物線を描いて一番消毒効果があるところが75度だった。医療関係のアルコール消毒液でいうと75度近辺を使っていることが多いとのことで、75〜77度付近でつくることができれば、少しアルコールが揮発したとしても、効果が見込めるなと。

これは県のほうからアドバイスをいただいた。今は規制も緩和されてアルコール度数60度でもOKとなっているんだけれど、申請に行った際は、70〜83度ぐらいで作ってくださいということだった。それで、一番効果が見込める77度にしようと決めたんだ。それが「泰明アルコール77」の名前の由来。

 

藤居醸造がアルコールを通して伝えたいこと

藤居醸造の店内の写真

やっぱり周りの状況も切迫してたんだと思う。泰明アルコール77をつくる前から、医療関係者の方々や近所の方々から「消毒液つくることはできないか?」と言われたんだよね。「技術的なことはできるが、それをつくるのに免許がいるんだ」と説明をしていてね、作れるようになったら連絡しますってお答えしてた。

あの時は、本当にアルコール消毒液が豊後大野市だけじゃなく近隣まで回ってきていなくて。あるところは、2月に注文して5月末になっても消毒液が入ってこないなんてことがあったから。大きい病院はある程度ストックがあったとしても、町の小さい病院までにはなかなか回らない状況があったんじゃないかな。もちろん教育現場でも同じような状況があったみたい。小学校の先生たちも次亜塩素酸を使って消毒してそれを落とすのに再度水拭きしてっていう手間をかけて作業していらしたみたい。

 

周りの事情を聞いていたから、できるだけ早くと4月の下旬に完成した「泰明77」を豊後大野医師会と教育委員会へ寄付させていただいた。でもその時は、酒税がかかっていた状態だった。酒税はアルコール度数に応じて割合が変わってくるから高かった。なので、4月は酒税がかかった状態での販売だった。税務署を含めた皆が手探りだったからそれは仕方ないことで。5月初めからは免税になり、酒屋さんに消毒液を卸すことができるようになった。

 

 

酒屋さんに卸せるようになったことで、百貨店の「トキハ」さんやスーパーマーケット「トキハインダストリー」さんへ卸すことができた。ようやく一般の方々へ向けて販売することができたんだよね。店頭でも販売してありがたいことに近所の方々にも手が荒れないと評判よく、リピートで買っていただいている。

 

今回のアルコール消毒液もそうだけれど、アルコールを扱う者として、アルコールを通して自分たちができることを提供していきたいし、生活が安定して豊かになることを提供できたらいいですね。

今まで飲んでもらって楽しんでもらうことで感動を与える部分が中心だったけれど、こうしてアルコール消毒液という形で、アルコールが飲んで楽しむものに加えてもっと生活に身近な形で自分たちのつくるアルコールが皆さんの役に立つことが嬉しく思います。

 

 

取材・文=高橋ケン